大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(く)95号 決定

〔抄 録〕

よつて、考察するのに、少年の過去における非難すべき素行や原決定認定にかかる非行が、主として少年の愛情飢餓に基因する家庭離反の結果に因るものであることは、本件記録の明らかに示すところである。審判上、犯罪少年を如何に処遇すべきかは洵に困難な問題ではあるが、少年に対し保護処分を行うをもつて適当とされた以上、その処分は、少くとも、少年の健全な育成とその福祉を守る上において最も適切なものでなければならないことは多言を要しない。今これを本件について見るのに、少年の実父は妻(少年三才以来の継母)に対する気兼もあつたのであろう。少年非行によつて起きた原因が世の常でない家庭の欠陥にその主要なものがあるに拘わらず、その非行を専ら少年自身の無反省に帰し、師範学校卒業の教養を持ち、経済的にも相当恵まれた家庭の父として子女の保護育成の充分な能力を持ちながら、敢て原審において、少年の保護育成に自信なきをもつて暫時特別の施設による保護処分を求むる趣旨の陳述をすらしており、原審が、その認定した少年の非行にも照らし、斯かる家庭環境の下ではいわゆる自宅保護の処分をもつてしては到底少年保護の目的を達し得ないものと思料し敢て少年に対し少年院送致の保護処分に出でたことは一応首肯し得られないわけではない。然しながら、実父良は、少年を中等少年院に送致する旨の決定を受け現実に多摩少年院に収容されるに及んで、俄かに実父本然の愛情湧起し、過去において少年に対して冒した数々の過誤に想倒し、剩え多摩少年院からの少年の衷心から悔悟せる父を親う心の書信に接し、一切を少年一人の過誤に帰せしめた過去における自己の誤りは軈て少年に対する激烈な憐憫の情となり、茲に少年の将来を想う心の切なるものがあり少年の家庭離反の原因を為した生活の新たな建設を期すると共に、少年を上級の学校に入学せしめて天晴れ建全な社会人たらしむべく堅く意を決するに至つたことが窺われる。されば当裁判所は、少年を少年院に収容して保護育成を期しても、元来家庭的愛情の異常な不足があるかぎりいわゆる愛情飢餓による非行的傾向はついにこれを治癒し難きものあると思うと共に父の折角盛り上つた愛情の籠れる数々の配慮が日常の生活において現実的なものとして直接少年の心底に訴えるものがあつてこそ過去における少年のよるべなき心の確乎とした置き所を得、茲に少年再起の重大な契機があるものと考えるので、少年の改悛の情と共に実父の右決意乃至は少年に対するその保護方策において真に信頼し得るものがあるにおいては、幸い、当審提出の陳情書によつても明らかなように、少年の将来における保護監督に万遺憾なきを期すべき旨の居村の村長海老原邦太郎及び保護司宮本一也の陳情もあることであるから、この際、少年を少年院に送致するの保護処分に出でんよりは、寧ろ、少年の将来の福祉のため、少年を保護処分に付さないで実父や右村長及び保護司の保護監督に一任するか、それとも、在宅のまま保護観察所の観察に付するの保護処分を為し、もつて少年の健全な育成を期するをもつて相当と思料する。

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